糖尿病の運動療法、食事療法について教えて下さい。
第39巻 第2号 日本臨床内科医会会誌より編集。
糖尿病の治療の基本は運動療法と食事療法です。
今回は運動療法を中心にポイントを記載します。
運動療法には
1、歩行などの有酸素運動
2、筋力トレーニング
の2種類があります。
1、歩行などの有酸素運動
運動は強度が強いと無酸素運動中心になり、強度が弱いと有酸素運動になります。
無酸素運動と有酸素運動は医学的に何が違うかと言うと、無酸素運動ではエネルギー産生効率が悪く、有酸素運動ではエネルギー産生効率が良いと言う事になります。
エネルギー産生効率が悪い場合体に蓄積した余分なエネルギー源(脂肪など)が燃焼しずらいのです。
反対にエネルギー産生効率が良い場合に蓄積した余分なエネルギー源(脂肪など)が燃焼しやすいのです。
そのような理由からこれまでの医療では余分な脂肪を燃焼する為に有酸素運動が推奨されて来ました。
ところが有酸素運動によって効率的にたくさんのエネルギーが産生される反面、有酸素運動によって筋肉が消費するエネルギーは我々が期待するよりも遥かに少なく、実際には30〜40分の有酸素運動によるエネルギー消費の増加分は僅かに100〜200kcalにとどまります。
しかも、一見安全そうな歩行などの体重移動を伴う有酸素運動の方が自重を用いた筋トレなどの一見ハードな運動よりも関節への負担が大きく、不整脈を引き起こすリスクも高いと言うことも分かって来ているようです。
2、筋トレ
血液中の血糖の8割が筋肉で処理されている事が分かっているようです。食事によって摂取された糖分(グルコース)は主に筋肉でグリコーゲンに作り変えられて貯蔵されるのです。その過程でインスリンも利用されます。
そして、筋トレをする事により、血糖を処理する一番大切な臓器である筋肉を増やす事がインスリンの感受性を改善し糖尿病を改善する事になるのです。
少なくとも糖尿病の運動療法として推奨されているのは筋トレと言う事になるようです。
有酸素運動も完全に否定されるべきではないかもしれませんが、積極的に意識して行う必要はないようです。
糖尿病の筋トレについてのポイント
①大きな筋肉だけを鍛える事で最低限の努力で最大限の効果を発揮する。
スクワットによって大腿四頭筋を、腕立て伏せによって大胸筋を鍛える。
欲張らずにこの2つの筋トレだけに徹する。
②伸長性収縮(エキセントリック収縮)をメインにする。
筋収縮には短縮性収縮(コンセントリック収縮)と伸長性収縮(エキセントリック収縮)に2つがあります。
短縮性収縮は筋肉が短くなりながら発揮する運動のことで、大腿四頭筋のスクワットで言うと膝を伸ばす運動、大胸筋の腕立て伏せで言うと腕を伸ばす運動。
伸長性収縮は筋肉が伸ばされながら発揮する運動のことで、大腿四頭筋のスクワットで言うと膝を曲げる運動、大胸筋の腕立て伏せで言うと腕を曲げる運動。
そして伸長性収縮運動では速筋線維と呼ばれる筋肉線維に負担がかかります。速筋線維は糖を主にエネルギー源とする為、速筋線維を鍛えて増やすことで糖の吸収能も向上する事が期待されます。
③筋トレの安全性
一般に筋トレによる死亡リスク、心血管病、がんなどの発症リスクは週30〜60分の範囲が最も低く、130〜140分を超えると逆に高くなる事が分かって来たようです。
また、筋トレを実行するタイミングは夕方が良いようです。具体的には夕食後30分ごろが推奨されています。
午前中は交感神経が活発なため筋トレにより血圧が上がりやすい為、可能なら午後が良いと言うことになります。
また、筋トレ中も無呼吸による血圧の変動を和らげる為に出来るだけ呼吸をするように心がけると良いようです。
最後に食事療法について一つだけコメントさせて頂きます。夕食のみ炭水化物をカットするのがお勧めです。
200〜400Kcalのエネルギーカットになり、これはSGLT2阻害薬によるカロリーロスとほぼ一致しており意義深いものと考えます。
『糖尿病に対する運動療法のコツ』
1、筋力トレーニングなどのレジスタンストレーニングを主とする。
2、運動の継続のため種目を大腿四頭筋や大胸筋などの大筋群に絞る。
3、伸長性収縮を意識する。
4、運動時間は一日20分、週3回でトータル60分以内と
する。
5、筋力トレーニングの後に10分程度の有酸素運動を行う。
6、食事は夕食のみ炭水化物をカットする。
7、できるだけご家族と一緒に行う。